「流れに身を任せ、才能を活かす」

インタビュー取材

前回の取材から4年。技術革新が加速する中、株式会社玉山工業の玉山社長に再びお話を伺いました。AI時代における人間の役割、そして日本が持つ独自の価値観の重要性について、玉山社長独自の視点から語っていただきました。さらに、若者への期待を込めて「ギフト」という言葉で表現される才能の見つけ方まで、示唆に富んだお話をお届けします。

玉山 久高(たまやま ひさたか)
株式会社玉山工業 代表取締役
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AI時代における日本の価値観

日野
日野

前回のインタビューから4年が経ち、社会情勢も大きく変わってきました。特に技術革新の面で大きな変化を感じますが、どのようにお考えでしょうか。

玉山社長
玉山社長

私もAIを使うことがありますが、生成AIは、これまで経営者やコンサルタントが出してきたアイデアを超えるような高いレベルの情報も提供できるようになってきています。付加価値を生産するのは、必ずしも人間である必要がなくなってきていますよね。

日野
日野

ここまでAIが日常で使われるようになるとは思っていませんでした。

玉山社長
玉山社長

これからは人間に求められる能力も変わってくるでしょう。かつて言われた「読み」「書き」「そろばん」といった基礎学力に代わって、現代では「AI」「金融」「グローバル」の分野の知識が必要になってきています。ものづくりの分野でも、従来の技術知識とAI活用スキルの両方が求められます。

日野
日野

その中で、人間にしかできない領域というのはどういったものだとお考えですか。

玉山社長
玉山社長

AIは確かに優れた情報処理能力を持っています。例えば、「金属加工業で売上が落ちてきた時の対策」と聞けば、20項目くらいの対策を提示してくれる。しかし、各企業固有の事情や、現場でしか分からない微妙なニュアンスといったものは、AIにはまだ加味することができません。そこに人間の判断が必要になってくるんじゃないでしょうか。また、その判断とともにこれから重要になってくるのが日本独自の価値観なんじゃないかなと思っています。

日野
日野

どういうことでしょうか?

玉山社長
玉山社長

日本は最先端の価値観を持っていると思っています。例えば、LGBTへの対応にしても、実は日本は歴史的にずっと柔軟な受け入れ方をしてきました。また、集団としての日本人の振る舞いも素晴らしい。サッカーの試合後に観客が清掃して帰るのを見て、世界中の人たちが驚いていましたよね。でも、これは日本人にとっては自然な行動として根付いています。

日野
日野

そうした日本の特質が、これからの時代により重要になってくるということでしょうか。

玉山社長
玉山社長

そうですね。19世紀はイギリス、20世紀はアメリカが世界を牽引してきました。そして21世紀は、日本の価値観が世界を導いていく可能性があると考えています。日本人が持つ謙虚さ、協調性、思いやりの精神。これらは、ますます複雑化する世界において、非常に重要な価値になるはずです。特に集団としての調和を保ちながら、個人の多様性も受け入れていく。こうした日本的な価値観は、グローバル社会が直面する様々な課題を解決する鍵になるかもしれません。

与えられた”ギフト”に気づくこと

日野
日野

 玉山社長の最近を気づきについて教えてください。

玉山社長
玉山社長

よく「ビジョン」や「目標」を持つべきだと言われますよね。確かにそれも大切です。でも、もっと大切なのは、今この瞬間に対する「理解」と「受容」だと最近ずっと思っています。

日野
日野

「理解」と「受容」……どういうことでしょうか。

玉山社長
玉山社長

一人の人間ができることは思っているよりも小さいということです。世の中を川に例えるなら、流れに逆らって一生懸命進んでいっても辛いだけです。そうではなくて、川の流れを理解して自然とその流れに身を任せる方がいいと思いませんか。要は、事象の背景に存在している仕組みを理解することが重要だということです。

日野
日野

目標よりも現状の理解をすることが大事なのですね。

玉山社長
玉山社長

目標を掲げるというのは、今を否定していることにもなると思いませんか。そうではなくて「今もいいけど、次もいい」というような、ずっといい状態であることの方が大切です。たとえば、「感謝」には条件がないですよね。どんな条件で、どんな劣悪な環境であっても、感謝している状態だったら感謝になる。そういう状態で自然の流れに身を任せる。川の流れに沿って自然にやっていけば、最後は海に到達する。それを逆向きに漕いだって無理なんです。

日野
日野

流れを読むことが大事というわけですね。

玉山社長
玉山社長

読むことも大事ですが、それも恣意的ですよね。私の考えではそれぞれの人に与えられた責務はもう決まっているんじゃないか、ということです。英語のドラマでよく才能のことを「ギフト」って言いますよね。それは天から与えられたギフトだから、自分でやっているというより実際は「やらされている」んです。その自分にとっての「ギフト」に気づくことに意味があると思います。

日野
日野

そうした考え方は、どのようにして培われてきたのでしょうか。

玉山社長
玉山社長

長年の経験からですね。若い頃は私も必死でした。でも、振り返ってみると、必死になりすぎて見えていなかったものがたくさんあった。むしろ、力を抜いて自然な流れに身を任せた時の方が、本質的な変化が起きていたように思います。何かを得ようとすればするほど遠ざかり、あるがままを受け入れた時に、本当に必要なものが見えてくる。

日野
日野

具体的に、経営判断において「自然な流れ」を意識されるのは、どのような場面でしょうか。

玉山社長
玉山社長

まさしく今の時代ですね。変化の激しい時代だからこそ、この考え方が重要になると思います。例えば、コロナ禍の時もそうでした。いくら目標を立てても、経済活動が止まっている状況では進めません。そういう時は、その状況を受け入れた上で、できることを探していく。それが結果的に、より良い方向に進むことにつながるんです。

“負荷”は成長のチャンス

日野
日野

最後に若い世代に向けて、メッセージをお願いできますか。

玉山社長
玉山社長

若い人たちにはぜひ「ギフト」を見つけてもらいたいですね。ただし、それはすぐには見つからないものです。活躍している大谷選手のように、高校時代から目標を持って進めるケースもありますが、全員がそうなれるわけではありません。与えられたものを、目の前のことを一生懸命やっていると、その次のチャンスも出てくる。逆に、これでもない、あれでもないとあれこれ考えすぎると、よくわからなくなってしまう。
具体的に仕事で考えてみると、3年程度の経験で見えるものは、ごく表面的なことだけです。表層的な業務の流れは理解できても、なぜそうなのか、どういう歴史や背景があるのか、といった深い理解には至りません。本質が見えてくるのは、最低でも10年くらいは必要です。その業界特有の暗黙知や、人間関係の機微、さらには会社や業界の将来を左右するような大きな流れを読む力。そういったものは、やはり時間をかけて経験を積み重ねることでしか身につかないんです。

日野
日野

最近は効率や即効性を求める傾向が強いように感じます。

玉山社長
玉山社長

タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)を重視する風潮がありますが、本当の意味での成長はそれだけでは得られません。むしろ、ある程度の負荷や制約が必要です。ジムではお金を払って自分に負荷をかけますよね。仕事も同じで、適度な負荷があることで人は成長できる。最近は「パワハラ」という言葉で片付けられがちですが、適切な負荷や指導を受ける機会を失うことは、むしろ才能の芽を摘むことになりかねません。社会は大きく変わっていきます。その中で生き残るためには、自分の才能を見つけ、磨き続けることが大切です。ただし、それは一朝一夕にはいかないので、目の前のことに真摯に向き合い、時には負荷もかけながら、じっくりと成長していってほしいですね。

日野
日野

本日は貴重なお話をありがとうございました。

4年ぶりにお会いできたこと、今回も大変興味深いお話を聞けたことが何より嬉しかったです。
大きな流れの中で、自分の身をどう処するか、考え直すきっかけとなりました。

<取材・執筆=日野、写真=齋藤>

株式会社玉山工業HP:https://tamayama.co.jp/

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