「やっぱり仕事を楽しめていることが大事」

インタビュー取材

京都の老舗企業・西利の平井社長が提唱する「3つの心」。それは単なる社内の行動指針ではなく、人と企業の成長哲学を表すものだった。「会社は人の集まりでしかない」と語る平井社長に、改めて企業における人材育成の在り方、そして仕事との向き合い方について伺った。

平井 誠一(ひらい せいいち)
株式会社西利 代表取締役社長
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「3つの心」と会社の存在意義

日野
日野

前回の取材の中で、西利が大切にされている「3つの心」のお話が特に印象的でした。改めてその背景や価値についてお聞きしたいです。

平井社長
平井社長

大前提として、やっぱり仕事を楽しめていることが大事です。最近、転職を申し出てくる人たちに対して必ず話していることがあって、「何かやりたいことがあって転職するんだったら応援してあげたい。しかし、働く中において不満があって、もしその不満を解消する努力をしていないのであれば、一旦うちで解消する努力をしてから転職した方が良い」ということ。不満や自分の中の課題から逃げる手段として転職してしまったのでは、次の就職先でも同じことが起きる可能性が高い。であるならば、逃げずに一度その不満をちゃんと課題に置き換えて、自分なりの行動で改善できるものをやってみる。自分の心の内に問題があるとするならば「自分が変わって成長する機会を、うちでやってみたら良いよ」と伝えています。そのベースとしてあるのは、仕事が楽しめてるかどうか。うまくいかない時もあるし、自分自身に腹が立つ時や、がっかりする時もあるけど、それでも結局好きだから続けられるんです。100%の環境なんてものはないので、その環境に対して自分がどう向き合っていくべきかが大事だと思います。

日野
日野

仕事を楽しめているかどうか……。

平井社長
平井社長

実はそれに繋がるのが3つの心ですね。これは「個人の自己成長の場を会社が提供していきたい」というのがベースにある考え方なんです。西利では、『旬 おいしく、やさしく。』を目標として掲げて、「3つの心」を育むことによって自己成長を果たし、社会に必要とされる企業になるために我々の願う塩かげんの境地を目指していきましょうと、会社全体で取り組んでいます。

日野
日野

会社で自己成長の場を提供しようと考えているのはどうしてなのでしょうか?

平井社長
平井社長

最近よく社員と「会社とは」ということについて話をするのですが、僕の解釈で言うと、会社は人の集まりでしかない。同じ想いを持って集まってる人たちが1つの事業を全員でやるために集まった集団。その中では集団を動かしていかないといけないので、組織があって、役割分担があって、そして1つの号令で全員が動くことも必要になってきます。 同時に、人の集まりでしかないので、1人1人の成長が会社の成長でもある。だから、1人1人が成長を止めた瞬間、会社も成長しなくなります。かと言ってそれぞれが力を持ってたとしてもみんながバラバラの方向を向いてたら、力は分散するだけです。ベクトルを合わせていかないといけない。役割分担を明確にしてチームワークを上げていかないといけない。そのために社是があり、ミーティングを定期的に行ってベクトルを合わせるようにしています。

日野
日野

「3つの心」がこの成長を支える土台になるのですね。

平井社長
平井社長

3つの心というのは「きめこまかな心」「おもいやる心」「わかちあう心」のこと。人とコミュニケーションを取るために、最低限守りましょうという礼儀。土足で人の心の中にずかずか入ってこられると、いやでしょ。土足で踏み込んでいかないようなことだと捉えてもらったら良いと思うんですけど。この「3つの心」を育むことは目的ではなくて、それを育んだ上で自分を知り、自分を変え、精神的調和を深めていけるきっかけを作っていくということなんです。

日野
日野

この「3つの心」というのは幼少期から教えられてきた「思いやりなさい」や「分かり合おうとしなさい」といったことを想像したらいいんでしょうか。

平井社長
平井社長

そうです。どうしても自分の理解の範疇を超えた特別なことをするのは無理だから、自分にできることをしたら良いです。「俺だったらこうして欲しいな」「俺だったらこう言われたいな」と思うことをしたり、 言ったりとか。もしくは、どういう風に伝えたらいいかを確認した上で言葉にするとか。やっぱり言葉の掛け合いでないとダメだと思う。そのためにはベースとなる気持ちがすごく大事です。

日野
日野

この心掛けは広く社会や人間関係、コミュニケーションを取る時にも大事になってくるなと思いました。

平井社長
平井社長

なので「3つの心」を育んでいくと、友人関係、家族関係、僕は全てクリアになっていく可能性があると思っています。ただし、相手にもできるだけ同じ価値観を持ってもらわないといけない。

役職ではなく役割 -仕事力と人間力-

平井社長
平井社長

その価値観を合わせるために定期的に社是を確認する時間を取るようにしているとお話ししましたが、他にも社員にはそれぞれ役割を持ってもらっています。西利では「役職手当」ではなく「役割手当」という制度を採用しているんですね。エリアマネージャーなのか副工場長なのかで、求められる役割が変わってきます。

日野
日野

「役職」と「役割」というのはどのように違うのでしょうか?

平井社長
平井社長

「役職」は仕事を遂行するための職責分類だと思っています。仕事を遂行するためだけの力です。一方で「役割」というのは家族にもお母さん役、お父さん役があるように、人間力も併せて必要になってくるという意味になります。役職の場合、職責だけの役割になってしまって、それを超えたところの総合的な役割に対して評価していけなくなる。でも、仕事の遂行だけうまくいってたらそれで良いのかっていうと、それだけではそこに出勤して仲間に会うのも楽しくない。だから、人間力も評価していけるように役割手当というものを導入しました。楽しい職場を作っていこうと思うと、ミスのない職場よりも、ミスが起こった時にみんなで助け合う職場の方が僕は良いんじゃないかなと思うんですね。そうした環境を作るためにも人間力が大切になってくると考え、自分らのこだわりで、当時の経営陣に手当の名前変えようと提案をしたんです。

日野
日野

仕事ができるだけではダメってことですね。人間力も同時に必要になってくると……。

平井社長
平井社長

やっぱり、会社って人の集まりでしかなくて、上司と部下っていう関係の中で、上司が持つべきスキルと、部下が持つべきスキルは違うし、仕事力だけでなく人間力も、それぞれまた持つ味わいが違ってきます。……これは「味わい」っていう言い方が近いと思うんですけどね、やっぱり部長職が持っておく人間的魅力の味わいって違うよね、そんな感覚です。

仕事に対する情熱と自己分析

日野
日野

最後に、これから就職する大学生、そして自分の方向性を考えている若い世代に向けて、メッセージをお願いします。

平井社長
平井社長

先ほど言ったように、その仕事が好き、もしくは好きになれるというイメージがしっかり持てる就職をした方が良いと思います。やっぱり、好きでないと楽しくないですから。確かに仕事だから責任もついて回ってくるので、その好きだけでは解決しないこと、辛いこともあります。失敗することもある。うまくいかない時にも、なんとか改善しようと思えるかどうかはその仕事に対する思い入れや責任感によるところが大きいです。そしてその背景は、好きでやってるっていうところが結構あって。それも趣味としての好きなものではなくて、自分の中で情熱を持ってやりがいを感じられるものであることが大事。西利の販売職を希望してきてくれる人の中には、「人と接するのが好きで」と言ってくれる人がいますが、「人と接することが1番多い仕事はもしかしたら総務かもわからんで」と思ったりするわけです。だから、もっと具体的に自分は何をしたいのかを考えた方が良いと思っています。例えば「自分が大好きなお漬物をもっと広く広めたい」とか、「お買い物をもっと楽しく演出するためのお手伝いをし、ありがとうをたくさんもらえるお仕事がしたい」とか。そのぐらいもう少し具体的に、自分の本当にしたい仕事はなんなのか、自分が仕事をしてどんな活動によって何を得たいのかというのが、明確になると良いんだろうなと思っています。

日野
日野

そのためには自己分析をすることが必要になってきそうです。

平井社長
平井社長

「私、美味しいもの食べるのが大好きなので、食品メーカーを選びました」っていう人の方がまだわかりやすいですよね。やっぱり自分が美味しいと思うものでないと、売るの辛いですから。自分が好きじゃないのに、儲かるからそれで売るっていうのが1番辛い。だから自己分析を最初にやっておくべきで、「好きこそものの上手なれ」っていうことがあるけれども、やっぱり好きな方が頑張れるよね。好きじゃないものだとすぐ、嫌なことあったらすぐに逃げたくなる。それがちょっと今、簡単すぎる面もあるし。

日野
日野

簡単すぎるというのは、どういう意味でしょうか?

平井社長
平井社長

好きじゃないかもと思ったらすぐに仕事を変えるということです。判断が早すぎる。やっぱりどんな仕事でも長く続けた方が絶対に成長できるんです。時間をかけるっていうのが1番成長の中で大切で、簡単にすぐ器用にできる人っていうのは数少ない。大半は時間をかけることによって、それに対するエキスパートが生まれてくる。キャリアアップとかいう言葉を転職で使うけど、 キャリアアップはよっぽどその同業種の中でステップアップを繰り返していかなきゃだめですよ。

日野
日野

根底に仕事を楽しいとか好きって思えるような心がないと、どうしても無理が出ちゃうし続かないよねというのが、まさに冒頭お話されていたことと繋がりました。ありがとうございます。

平井社長のお話を伺い、西利様のようにコミュニケーションを通じて失敗も、成功も共に共有できる仲間がいる環境の有り難さを改めて実感いたしました。昨今、ワークライフバランス、労働時間の短縮といった働き方改革によって良い面がある一方で、会社と社員との乖離が進んでいるようにも感じております。そのような中で、西利様が掲げる「3つの心」は、幸せな生き方を追求する上で、ますます重要性を増していくものと感じました。

<取材・執筆=日野、写真=齋藤>

株式会社西利 HP:https://www.nishiri.co.jp/

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