「判断は自分の経験からしかできない」

インタビュー取材

前企画『京大生、京都の社長・会長に学ぶ』で、最初にご協力いただいたのがアクトファイブ株式会社の石井社長でした。前回の取材中、日本人と外国人の考え方の違いを話す中で突如出てきた「使命感」。4年の時を経て再び石井社長にお話を伺い、その言葉の背景と、彼の哲学に迫りました。

石井 郁男(いしい いくお)
アクトファイブ株式会社 代表取締役社長
前回の記事はこちら

特性に合っていない仕事では難しい

日野
日野

前回、4年前の取材では日本と海外を対比したお話を伺いましたが、その中で今の若者の使命感についてのご指摘がありました。改めてその言葉の背景からお聞きしたいです。

石井社長
石井社長

使命感って、そんなこと言いましたかね(笑)。 僕らの世代も上の世代から比べたら使命感がないって言われていたんだろうけどね。やっぱり豊かになると難しいよね。何かをする動機付けが難しい。うちの会社にはベトナムの人や中国の人、スリランカ人もいるけど、日本人に比べるとハングリーですよね。とにかく一生懸命で、認められて賃金が上がるようにしようというパワーが強いです。それに比べたら日本人はそうしたハングリーさは少ない。アメリカなんか競争が厳しいでしょ。日本はアメリカみたいに貧富の差が激しい社会じゃないから、そういう意味でも緊張感はないですよね。

日野
日野

逆に日本人の良さはどういうところにあると思われますか?

石井社長
石井社長

日本人の良いところ、いっぱいあるじゃないですか。ずるはしないし。悪いことしない方が日本では得ですよ。

日野
日野

得ですか?それは海外だったら、悪いことをしない=損になるってことでしょうか?

石井社長
石井社長

例えば中国では列に並んでいても、割り込まないと物がもらえないことが多いんです。欲しければ割り込まざるを得ない。だから東北の震災が起きた時、上海で話題になりました。「なんで日本人はあんなにみんなきちんと並んでいるの?」って。そしたら別の上海勤務の社員が「日本では並んでいても、もらえるでしょ」って。

日野
日野

それは文化や環境の違いということですかね。

石井社長
石井社長

しょうがないところはあるよね。中国では、忘年会で抽選の景品を選ぶくじを作らせると半分しか景品がもらえないようにくじを作って、あと半分の人には何も当たらない。一方で日本では最後の人まで商品券などの商品がもらえるようにくじを作る。結局、どういう国にしたいかで変わるんじゃないかな、教育制度もその哲学も。日本には、明治維新以来どういう国にしていきたいかという方針がないと思うんだよね。明治維新の時には日本をどういうふうにしていきたいっていう目標がはっきりしてたと思う。今、そうした目標を掲げられる人が出てきたらいいと思うけどな。

日野
日野

そうした停滞を打開するためには、もっと使命感を持った若者が出てくる必要があるということでしょうか。

石井社長
石井社長

そうだね。でも縛りが多いでしょう。日本はあんまり自由じゃないよね。いろんな規制、例えばライドシェア(一般のドライバーが自家用車で移動サービスを提供する相乗りサービス)だって日本ではなかなかできないし。日本ぐらいライドシェアが必要な国はないと思う。 田舎なんか不便でしょうがない。中国では日常化している。一般の人がライドシェアのドライバーに登録できちゃうから今すごく便利ですよ。そう考えると、やっぱり日本は規制が多くて動くのが難しいなと思うよ。
でも製造業はそういうのないんですよ。良いもの造ったら売れるだけですよ。その機械に意味があれば世界で売れるわけです。今うちが造っているEVバッテリー機械、半分はアメリカ、他にもスウェーデンとかドイツとかに出荷してるんだけど、他にない機械造ればそういうことができる。自由にやれるから面白い。良い機械考えれば世界で売れるし、考えなきゃ売れないだけです。日本が国を豊かに強くしていくんだったら、製造業しかないと思うんですよね。日本みたいにコツコツ努力することを評価するような国民性ってあまりないし。

日野
日野

そうした文化の違いや民族性の違いを受け入れた上で、それを活かしていきたい。

石井社長
石井社長

結局、自分たちの性格とか人生観とかそういうものに合ってない仕事って難しいじゃない。 自分たちの特性に合った仕事で、いろんな世界の人が評価してくれることに、エネルギーを集中した方が良いんじゃない。

繰り返してきた経験を大切にする

日野
日野

2つ目の質問に移っていきたいのですが、今回のテーマでもある経営者の哲学について、石井社長が大切にされている考えを1つお伺いしたいです。

石井社長
石井社長

1つの言葉でそういうのがあるわけじゃないけど、 何事も自分の経験からしか判断できないんじゃないかなと思っている。自分は強制されるのがすごく嫌なタイプだから、僕もそういうことはしたくない。多少やっていることが無駄だなってわかっていても、その人自身がある一定の方向に気づくまで放っておくというやり方をしています。要するに、自分自身が納得しながら進めなかったら、無理が出ちゃうと思うんですね。 それが良いか悪いかはわかんないけど、自分がそうだったから。レールを敷いた方が育つ人もいるし、レールが無い方が育つ人もいる。僕は、あんまりレールを敷くことはしたくないね。

日野
日野

自分の経験が大事だと考えているからこそ、指示して教えるのではなく、ある程度放っておいて気づくのを待つのですね。

石井社長
石井社長

そうですね。例えばこの前、伏見の市民プールまで行ったんだけど、プールが踏み切りのそばにあるんですよ。 踏み切りの前で大きなカメラ背負って鉄道を撮る青年がいるわけ。ものすごく暑いんですよ。もう36℃ぐらいになってて。僕らが泳ぎに行く時からいた。2時間ぐらい泳いで帰ってきても、まだそこで青年が鉄道を撮ってるわけ。あれ、仕事で強制されたら絶対やらないよね。炎天下で2時間以上ずっと踏切にいろって言われたら嫌じゃない。だけど、その人たちは好きでやってるわけでしょ。だから仕事もそういう風に好きになってしまえば別に苦じゃないね。で、好きになるためには自分の意思で行動しなかったら無理だと思うんですよね。結局その仕事を好きになることが1番効率的なんだと思うよ。嫌いになっちゃったらもうダメだよね。

日野
日野

そうですね。自分の中で無理が出ちゃって、逆に続かなかったりします。
自分の経験したことでしか判断できないと考えるようになった原点はどこにあるのでしょうか?

石井社長
石井社長

僕らは既に世の中にある機械を造ってるわけじゃなくて、自分たちで考えて造ってるから、1発でうまくいくことなんてないんですよ。造って失敗して、それを改良してなんとかものになるっていうことの繰り返しでしょ。理屈がわかったからってできるものじゃないんだよね。

日野
日野

ある程度うまくいかないことがもう前提にあって、でもそういうものだと改善を繰り返していくっていう。

石井社長
石井社長

大体そうですよ。うまくいかないのを改善して、なんとかものにする。最初からうまくいくことないですよ。うまくいくんだったらみんなやってる。それを苦痛と思うか面白いと思うか。

日野
日野

やらされていたら確かに苦痛に感じると思います。

石井社長
石井社長

だから、たとえば社員に対しても、どんな仕事も自分で考えて作業していると認識してもらう方がいいですよね。やらされてるっていう発想になっちゃうとつまんなくなっちゃう。

日野
日野

そういう考え方になったのは、起業されてからなのでしょうか?

石井社長
石井社長

そうですね。起業して10年ぐらいは全然儲かんないもんね。毎日大変でしたよ。今考えれば、寝る以外仕事をしてた。 そんな生活が10年ぐらい続いたね。機械の脇で寝てしまうことも多かった。 でも好きだから、続けられたんだね。

日野
日野

確かに自分で試行錯誤する経験をしたいとは思うけど、実際ある程度の制限の中では難しいこともありそうです。

石井社長
石井社長

わからないことは社内の誰かわかる人に聞けば良いのだろうけど、そういう、経験しないとわからないことをどう模擬的に体得させられるかっていうのはまた難しいね。

アクトファイブ社の製品機械

好きなことが見つからない人へのメッセージ

日野
日野

3つ目に移っていきたいのですが、就職活動をしている人の中にはそもそも好きなことがあまりなかったり、失敗前提でやっていくのが怖いという人もいると思うのですが、そうした人たちに向けて、石井社長からメッセージをいただきたいです。

石井社長
石井社長

好きなことがないってこともないと思うんだよな。長くやれることは好きだよね。例えば、勉強できる人って勉強が嫌いじゃないからできるんだよね。ずっと長い時間継続できるから。スイミングでも、ずっと長くやれる人は、多分スイミングが好きなんですよ。そういう無理なく続けられることがきっと誰にでもあるんじゃないかなと思う。それをもっと追求したらいいんじゃないかな。長く継続できることっていうのは体質的に合ってるんですよ。

日野
日野

自然に継続してやっていることを見つける……

石井社長
石井社長

「この仕事は苦痛じゃなくずっとやれる」と思えたら、きっとそれが好きなんです。だったら、それをどんどん追求していったら、人よりも多少それを先行できる。でも人や制度がそこにブレーキかけちゃうんだな。例えば、夕方5時になったから、「この作業もう少ししたいけど時間なので止めます」というようなブレーキをかける要素が今すごく多いじゃない。労働条件や働き方改革で好きなことにもブレーキをかけようとしてるもんね。別に好きだったら徹夜したっていいじゃないですか。 させてあげたらいいじゃないですか。そこでしかわかんないことがあるんじゃないかな。設計でも、向いてないって自分で言ってても「やってたら朝になっちゃいました」なんていう人、結構いましたよ。好きっていうか、夢中になっちゃう。そういう人はそれに向いてますよ。そういう部分は誰にでもあるんじゃないかな。世の中のルールとか常識とかで枠にはめなきゃいいんじゃない。

日野
日野

例えば、好きなこととして、読書や SNSを見ることだとして、 いざ就職活動で仕事見つけようとなった時に、自分の好きなことと仕事がかけ離れているなと感じるかもしれません。そういう人たちにとっては、仕事をどう見つけていったらいいのでしょうか?

石井社長
石井社長

なんでもいいから一つやってみたらいいんじゃないかな。集中してやってみないと面白みはわかんない。集中してやっても、どうしてもこれ俺に向いてないと思うのか。これは案外好きかもとか。製造業って見た目かっこよくないじゃん。作業服着て油になったりして綺麗じゃないし、大変そうだなと思うけど、やりだすと結構みんな好きになるからやめないんですよ。

日野
日野

確かに、何事もある程度やってみないとわからないですよね。なんでもいいから、 1つのこと集中して、ある程度やってみるっていうところから始めたらいいですね。

石井社長
石井社長

それしかないんじゃないかな。


前回の取材で伺った「使命感」については、そのままでは難しい背景があることを教えていただきました。それよりも特性を活かした好きなことを見つけること、そして自分の経験したことをもとに繰り返し試行錯誤をするのが大事だという石井社長の哲学が伺えました。

<取材・執筆=日野、写真=田部>

アクトファイブ株式会社 HP:https://www.actfive.co.jp/

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