これから必要とされる「強みの概念化」とは

インタビュー取材

「吾が道は一を以って之を貫く」。前回の取材で座右の銘としてこの孔子の言葉を引用された中村社長。当時はその「一」を探している最中とのことでしたが、今回お伺いすると、机の上には『NKE way-諸公道一以貫之-』という冊子が。コロナ禍で社内コミュニケーションが希薄になる中、社員と共に自身の想いを1冊の本に結実させたというこの冊子。その誕生の背景から、中村社長が支持する「ワークライフハーモニー」、そしてAIの発達により変化する仕事のあり方についてお話を伺いました。

中村 道一(なかむら みちかず)
NKE株式会社 代表取締役社長
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4年前のインタビューから現在までの変化

日野
日野

 前回の取材から4年が経ちましたが、この間に何か大きな変化はありましたか?

中村社長
中村社長

最も大きな変化は、会社の大切にしている考えや私自身の想いをまとめた冊子『NKE way-諸公道一以貫之-』を制作したことです。コロナ禍で外出が制限され、社内の様子を見ていく中で、自分のメッセージがどこまで浸透しているのか不安になったんです。そこで、これまで朝礼などで伝えてきた内容を体系立ててまとめ、1冊の本にすることにしました。

日野
日野

具体的にはどのような内容が盛り込まれているのでしょうか。

中村社長
中村社長

何を大切にするのか、どのように働くのか、なぜ働くのか、経済的価値をなぜ上げなければならないのか、イノベーションやマネジメントへの取り組み方など、多岐にわたる内容をコンパクトにまとめています。現在はこれを実践的なレベルまで落とし込むことに注力しているところです。

日野
日野

まさに会社の羅針盤とも言える1冊ですね。冊子を作成した後は、社内でどのように活用されているのでしょうか。

中村社長
中村社長

部長たちに本を教材にして勉強会を実施してもらい、各部門で新たな気づきを持ち帰って伝えてもらっています。これを私たちは「共育」と呼んでいますが、リーダーたちが自分の言葉で咀嚼し、部下に伝えていく。そんな流れを作っていきたいと思っています。 冊子の作成にあたっては、他社に依頼するのではなく、社員自らがページ割りや添削を行いました。推敲を重ねるその過程で、プロジェクトメンバーの理解が一層深まったように思います。

日野
日野

1年半もの歳月をかけて作り上げた冊子。社員の方々が編集に関わったことで、より深く内容が浸透したのですね。

中村社長
中村社長

編集後記を読むと、まとめてくれた社員の熱い想いが伝わってきました。冊子作りに関わることで編集メンバーが内容を深く理解してくれました。お蔭で良い仕上がりになったと感じています。

日野
日野

タイトルにもある通り、『NKE way』は正に「吾が道は一を以って之を貫く」を体現した1冊と言えそうです。

中村社長
中村社長

この冊子を残せたことが、私にとっての「一」なのかもしません。

1年半かけて制作した『NKE way』

「ワークライフハーモニー」と「強みの概念化」

日野
日野

中村社長が経営者として最も大切にされている考え方をお聞かせください。

中村社長
中村社長

『NKE way-諸公道一以貫之-』の冒頭にも書いた通り、私はワークライフハーモニーという考え方を支持しています。ワークライフバランスという言葉がありますが、これだと仕事と生活がトレードオフの関係にあるように感じられます。仕事は苦役だけれど、充実した私生活のためにはやむを得ない。そんな印象を与えかねません。 しかし、人生の大部分を仕事に捧げる以上、仕事での成功ややりがいは人生の質を大きく左右します。仕事と生活を分断するのではなく、両者が調和する状態こそが理想だと考えています

日野
日野

仕事もプライベートも共に充実させる。確かにそれが一番望ましい姿ですね。

中村社長
中村社長

そのためには、自分の強みを概念化することが肝要です。例えば機械設計のスキルに秀でていても、いずれはAIに代替されるかもしれません。しかし、「機械技術で人々の困りごとを解決する」と、強みを概念にまで昇華させることができれば、設計という手段が失われても時代の変化に対応できると思うんです。いずれにしても、ワークライフハーモニーでは、自分の強みを存分に生かせる環境を整えることが重要だと思います。

日野
日野

「強みを概念化する」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

中村社長
中村社長

特定のスキルにとらわれるのではなく、自分の仕事が社会にどう貢献しているのかを俯瞰することです。機械設計という仕事が、どのような社会的価値の創出に寄与しているのか。どのような課題解決の一助となっているのか。そこに喜びややりがいを見出せれば、AIが一部の工程を代替しようと、強みの本質が失われることはありません。

日野
日野

なるほど。それでは、強みを概念化するためにはどうすればよいのでしょうか。

中村社長
中村社長

視座を上げ、視野を広げることだと思います。自分の仕事が全体にどのような影響を及ぼしているのか、全体の成果がどのような意味を持つのかを意識することが大切です。世の中はダイナミックに変化しているので、今だけでなく、将来を見据えることで、これから求められるニーズが自ずと見えてくるはずです。

日野
日野

日々の仕事の中で、大局観を持つことが求められるわけですね。

中村社長
中村社長

各部門のリーダーたちにも、自部門の成果に責任を持つのは当然ですが、それが全社的な成果にどうつながっているのかを常に意識してほしいと思います。細分化された目標の達成に躍起になるあまり、本来の目的を見失ってしまっては元も子もありません。

日野
日野

自分の担当業務だけでなく、組織全体を見渡す視点を持つ。それが大切だということですね。

中村社長
中村社長

今の自分を俯瞰し、客観的に捉える意識を持つこと。そのために自分の守備範囲を少し越えて、未知の領域に目を向けてみることも必要ですね。

AIに取って代わられる時代の中で

日野
日野

AIの目覚ましい発達により、将来的に多くの仕事が機械に代替されるのではないかと不安を感じる人も少なくありません。そうした人たちへのメッセージをお願いします。

中村社長
中村社長

便利になる部分にはどんどんAIを活用すべきだと考えてます。当社でもAIツールを積極的に導入し、プログラミングの一部工程をAIに任せることで大きな効率化を実現しています。ただし、最終的な検証や判断は人間が行う必要があるなど、まだまだ人間にできることってたくさんあると思います。その仕事が担ってきた社会的役割を再考すれば、AIでは成し得ない領域が見えてくると思います。例えば、便利屋の仕事は一見AIに代替されやすそうです。しかし、困っている人の心に寄り添い、オーダーメイドの解決策を提供するという便利屋本来の役割は、AIには決して真似できないですよね。人が心豊かに暮らすためにAIを有効活用すべきですね。AIに任せられることは任せつつ、人間にしかできないことに全力で取り組む。そうしたメリハリのある働き方こそが、これからの時代に求められているのだと思います。

日野
日野

人にしかできないこととは、具体的にどのようなことでしょうか?

中村社長
中村社長

例えば、コミュニケーションの質は、AIでは代替できない重要な要素の一つです。コロナ禍で気づいたのは、無駄話の大切さです。ビジネス以外の何気ない会話がなくなると、どうしてもギクシャクしてしまう。だから部下との1対1の面談では、仕事の話題を決めずに自由に話してもらうようにしています。現在、150人の社員全員と毎年1回は個人面談をしています。最初は話題を決めてやっていましたが、今は何の話題でもいいから面白い話をしようと伝えるだけです。そうすると社員からいろんな話が出てきて、アイデアも生まれるんですよ。無駄話の中から新しい知恵が生まれることが多いんです。飲みニケーションは否定的に言われがちですが、そういう場も大切にしたいですね。無駄を削ぎ落とすだけでは、新しいものは生まれません。ある程度の余裕は必要不可欠だと思います。

日野
日野

なるほど。効率化だけを追求するのではなく、人間らしい交流を大切にすることが重要なんですね。

中村社長
中村社長

AIは効率化には役立ちますが、人間同士の深い理解や信頼関係、そこから生まれる創造性は、AIにはない人間の強みです。これからの時代、そういった人間らしさを大切にしながら、AIとうまく共存していく力が求められると思います。

今回のお話のなかで特に印象に残ったのが「強みの概念化」のお話でした。具体的事象にこだわるのではなく、変化に対応していくために視野を広げ、視座を高めていくことが必要だというお話は、自分の中で日々意識していきたいと思いました。

<取材・執筆=日野、写真=丸山>

NKE株式会社 HP:https://www.nke.co.jp/

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