誰よりも動いてきた経営者の哲学

インタビュー取材

バブル期に起業し、宝飾品店から美容クリニックまで、時代のニーズに応じて事業を展開してきた中野社長。創業期には信用がなく、ガソリンスタンドのカードすら作れなかった。そんな苦労の日々から、いかにして現在の地位を築いたのか。そして、AIが台頭する時代に若者が身につけるべき「人間力」とは—。

中野 猛(なかの たけし)
株式会社ジェムケリーグループホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO
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とにかく結果を出すしかなかった

日野
日野

前回の取材では、中野社長の幼少期から現在に至るまでお話を伺いました。今回は改めて創業期の経緯から詳しくお聞かせいただけますか。

中野社長
中野社長

文字通り何もないところからのスタートでした。30歳で会社を作って、株式会社だからカードぐらい作れるだろうと思っていたんですが社用車用のガソリンスタンドカードも作れなかった。会社の創業期というのはそれだけ信用がないということを思い知らされました。その時に、「とにかく利益を上げて信用を勝ち取っていくしかない」と強く思いました。「お前ら見返してやるからな」という気概でしたね。

日野
日野

そのような強い思いが、その後の成長につながったのですね。

中野社長
中野社長

絶対に売上で負けない、何がなんでも利益を出そうと思っていました。創業期は6人で1億円ぐらいの売上を3ヶ月で作りました。34歳の時には経常利益で5億円ぐらい出しました。その時の原動力は、悔しさと怒りと反骨精神、この3つしかなかったですね。いまこんな話をすると、「このおっさんアホじゃないか」とか「古い」と言われそうですが、30数年前の私にはそれしか語るものがありませんでしたから。

日野
日野

たくさん働いていたということですが、具体的にどのくらい働かれていたのでしょうか。

中野社長
中野社長

まず休みなしです。朝は10時から会社に来て、帰るのは夜11時半。そこから若い社員連れて、営業のロールプレイング。就寝は夜中の3時でしたね。バブルの頃に「24時間働けますか」というCMがありましたが、私たちは地で行っていましたね。もちろん、いまやれと言われても無理ですけど(笑)。でも、当時はそれしか道はなかったように思います。1ヶ月で1本しか売れないとしても、3倍頑張ったら3本売れる。その考えだけで突き進んでいましたね。

日野
日野

圧倒的な仕事量ですね。もし現在、中野社長が20代だったらどんなことでお仕事をしていくだろうと思いますか?

中野社長
中野社長

もしいま20代だったら私はSNSに力を入れるでしょうね。SNSを利用して人間関係を作って、物を売りに行く。実際、TikTokをやっているのですがよく見られているんですよ。最初はただ筋トレ動画あげているだけで、なかなか再生数伸びなかったのですが、自分で「スーパーサイヤジジイ」というワードを考えて年齢を公表していったら反響があって。こうやって試行錯誤の過程で数字が変化していく様子を追うのは楽しいですね。

日野
日野

今の話を聞いていて、前回の取材で伺った「車検の時期を見て車の営業されていた話」を思い出しました。こうした、マーケティングの考え方の原点はどこにあったのでしょうか。

中野社長
中野社長

生きていくために考えなければならなかったのでしょうね。幼少期から小遣い稼ぎのために空き瓶を集めて酒屋に持って行ったりとかしてましたし。やはり追い込まれた方がいいのかなと思います。生きるための知恵というか、追い込まれることによって知恵を発動していって、いまに至るという感じです。

日野
日野

中野社長がおっしゃる生き抜く知恵や動くことの大切さは、若い世代にとっても大きな示唆があると感じます。中野社長のような生きる力を身につけるためには、どうしたらいいでしょうか?

中野社長
中野社長

人の1.2倍から2倍ぐらい働くということですかね。質よりも量というのはすごく意識しましたね。私の場合、才能がないので動くという行動でしか人との差をつけることができませんでしたから。
あとは運動も欠かさずにしています。40代で会社が初めての赤字になった時、自分の体型を見たらすごく太っていて。こんなに太ったら会社の業績も上がらないと思い、そこから運動はずっと習慣になっています。今朝も30分クロストレーナーを漕いできました。運動すると頭もスッキリするし、アイデアも浮かんでくる。どっちも「動く」ですね。(笑)動くことが大事ですね。

時代の変化を見据えた『美』の追求

日野
日野

経営者として、大切にされている考えをお聞かせください。

中野社長
中野社長

私は長いこと宝石で商売をしてきたので、生涯「美」をテーマにしたいと思っています。サラリーマン時代に働いていた呉服屋、これもファッション、日本の伝統美です。そしてジュエリーは、まさに美の結晶と言えます。そしていま力を入れている美容クリニック、これも健康美であります。ずっとテーマは「美」でした。生涯ここから外れることはないだろうなと。美をトータルに追求する会社として今の若い幹部にも、伝えていっています。

日野
日野

美の形自体は時代とともに変わってきているのでしょうか。

中野社長
中野社長

そうですね。昔は宝石をつけることは贅沢でしたが、いまはたとえば自分へのご褒美としてジュエリーをつける女性が増えてきたり、さらには直接綺麗になりたい人が美容クリニックを利用したりしています。それに合わせて私たちは美を追求していかなければならない。「顕在需要よりも潜在需要を意識するように」と社員には言っています。

日野
日野

どうしていつの時代も人は美を求めるのでしょうか。

中野社長
中野社長

やはりかっこいい方がいいし、綺麗な方がいいですよね。昨日のあなたよりも今日のあなたの方が綺麗だったら嬉しいし、「痩せたね」って言われたら嬉しいじゃないですか。これって心の栄養でもあるんです。人はいつの時代も承認欲求を持っています。SNSでもフォロワーが増えたら嬉しいし、コメントが入ってきたら嬉しい。これ全て同じことです。人って一人では生きていけないから、何かしらの形で承認されたい生き物なんです。私も年を取ることは避けられませんが、その取り方をかっこよくしたいなと思います。「どうせ金を持って死ねないんだから、「カッコいいじじいになったね」って言われながら死のうよ」そんな提案ができたらいいなと思います。そろそろ懐メロを聞いて、ゆっくりお茶を飲みながら過ごしたい気持ちもありますけど、まだまだそれは早いかなと思って、一生懸命アンテナを張り巡らしています。

日野
日野

中野社長は時代に合わせた感性を、どうやって磨いているのですか?

中野社長
中野社長

ネットも見るし、若い子とも話をするし、若いお客さんと今でも接して、何に興味があるのかを聞いています。それを怠った時が、本当に引退する時かなと思っていますね。私はジュエリー業界にいるおかげで、アパレルで何が流行っているのか、どんな色が今年のトレンドなのか、それに合わせてどんなアクセサリーが来るのか、そういった情報が入ってきます。80年代のファッションが流行っているとか、オーバーサイズが来ているなというのも。自分がそれを着る着ないは別にして、何が流行っているかは常に把握するようにしています。それは職業柄ですね。

人間力は経験からしか学べない

日野
日野

就職活動中の学生や、京都での転職を希望している20代の若い人たちへメッセージをお願いします。

中野社長
中野社長

やはり基礎を作っていくのは20代だと思います。現在AIが流行っていますが、AIがしばらくはできないものがあるとするならば、それは人間力でしょう。人に何か影響を与えたりとか励ましたり、温かみを感じたり。AIに「お前、頑張れ」と励まされて「そうだね、AIありがとう」ということはないと思います。励ます側の人間になろうと思えば、何かの経験をして、何かを乗り越えて、そういう人間力を身につけなければそこにはいけない。若い人たちにはそういう人間になってほしいと思うし、そういう人間が京都にいてほしいなと思います。

日野
日野

若い世代に、特に意識してほしいことはありますか。

中野社長
中野社長

自分たちが10年後にどんな自分になっているかということを意識することはすごく大事です。一生懸命だったり、自分を追い込んでみたりとか、極限の状態で人というのはいろんな力を発揮すると思うんです。そういう経験ができたらしてほしいなと思います。私はそこで一皮、二皮むけたかなと思うので。最近のコロナも大変でしたが、案外私の中では大したことなかったですね。過去の経験に比べたら、これくらいのことかと思えました。

日野
日野

経験を積み重ねることで、乗り越える力も身についていくんですね。

中野社長
中野社長

そうです。怖いものがなくなるんです。先ほどの話に戻るんですけども、一生懸命になったり、自分を追い込んでみたり。極限の状態で人は成長する。ここはちょっと昭和のじじいみたいな話で申し訳ないですが(笑)。ともかく、若いうちにいろんな経験を積んで、人間としての深みを持ってほしいですね。それが結果的に、AIに代替されない、かけがえのない存在になることにつながるんじゃないでしょうか。

特に、成功への道のりにおいて、行動力が何より重要であるというお話が印象的でした。質を追求する前にまず量をこなすことの大切さ、そして時には自らを追い込んでいくこと、追い込まれることの必要性について、深く学ばせていただきました。

<取材・執筆=日野、写真=丸山>

株式会社ジェムケリーグループホールディングスHP:https://gemcerey.co.jp/

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