「こうでなければならない」を捨てた方がいい

インタビュー取材

4年前の取材では、「リズム」を自身のキーワードと言っていた株式会社おいかぜの代表取締役である柴田社長。4年経った今のキーワードからお聞きしたら、どんな仕事でも活かせそうな心構えをお伺いすることができました。

柴田 一哉(しばた かずや)
株式会社おいかぜ 代表取締役
前回記事はこちら

キーワードは「スピード感」と「関係性」

日野
日野

前回の取材では、大切にされているキーワードとしてリズムを挙げられていました。4年経った今、リズムについてどう考えられているかお伺いしたいです。

柴田社長
柴田社長

それで言うと4年前から状況はだいぶ変わっていて、子育てがそこまで大変じゃなくなってきたのでリズムを第一優先にしなくても良くなりました。そういう意味で言うと、最近はスピード感を意識していますね。仕事を「スピード・量・質」の3要素に分けた時、若い人は「自分にとって100点じゃないから提出できない」と質を重視する人が多いんですけど、僕はスピードと量が担保できると質は後からついてくると考えています。なので、確認や返事を早くすることを意識していますね。

日野
日野

自分で考え込みすぎないということも大事なのですね。

柴田社長
柴田社長

そうですね。自分がやるべきことをやって相手に投げて、また向こうのボールを受け取るというラリーを繰り返していると質は絶対に上がっていきます。若い子に言うのはそこだけです。「とにかく早く返せ」と。あまりにもいい加減に返すのは良くないですが、自分一人で練りすぎるよりも、70点ぐらいになったら速やかに相手に渡すことの方が大事かなと思っています。

日野
日野

その70点という基準がすごく難しいと感じています。例えば僕のインタビューの記事原稿校正を社内の人にお願いしてみると、思った以上に添削が多かったりします。その時に「こんなに添削が多いんだったら、自分でもうちょっと考えてやった方が良かったのかな」と思ってしまって。70点や80点が、仕事を始めたての頃は見極めが難しいように感じます。

柴田社長
柴田社長

でも、添削をお願いして70点がどれくらいかわかったわけじゃないですか。一度提出してみたから、自分が考えている70点よりもやらなきゃいけないことがもっとあることがわかった……、それだけでも意味のあることです。提出せずにしつこく粘り続けて仮に80点を取ったとしても、自分にとっての及第点を見つける時間が遅くなってしまう。それに、自分で考えてもわからないこともあるので、なるべく早く誰かから指摘をもらった方がいいと思います。

日野
日野

1回で完成品を出すよりも、ラリーを繰り返すことの方が大事なんですね。

柴田社長
柴田社長

そうですね。そういう意味で言うと、スピード感ともう1つ大事にしているなって今気づいたのが関係性ですね。結局、関係性をベースとしたラリーじゃないと、質が上がっていかない。 「この人ダメだろうな」という前提で見たり、逆に見られたりすると、あまり踏み込んだラリーができないですよね。関係性をちゃんと作って、その上で 70点を目指してスピード感をもってやっていくというのが大事だと思います。

日野
日野

関係性も大きなポイントになるのですね。

柴田社長
柴田社長

仲が良い方が良いじゃないですか。そうした当たり前のことが、仕事をしていると難しく感じる時があります。ほとんど小学生の時に教えてもらっている「挨拶しましょうね」「ちゃんと返事しようね」「期限守ろうね」……そういうことの積み重ねの上に関係性はあるはずなのに、今日は仕事が忙しいからと言って、「当たり前のこと」をおざなりにしてしまう。

日野
日野

若い人だったら「結果出せばいいじゃん」といった考えになりがちだけど、そうではない、ということですね。

柴田社長
柴田社長

良いものであればそれが世の中に認められるとか、 良いものを作ればそれが売れるという考え方って必ずしも正解とは限らないと思います。世の中の成功している人も、奇抜に見えたり尖っているように見えたりする人も、どちらも期限をしっかり守るなど、当たり前のことをきちんとやっているように思います。質についても結局、何をやるかじゃなくて、誰がやるかが大事じゃないですか。30年会社を経営している社長が「仕事ってね」というのと、1年目の社員が「仕事ってね」というのって全然違う。もちろん、言葉としての質は同じかもしれないですけど、その人が積み重ねてきた社会との関係性のレベルが全然違うわけですよね。 一人でできる仕事なんてないので、この関係性を無視しない方がいいと思っています。

日野
日野

結果の質は自分や周りと切り離されているように思ってしまいますが、関係性の上に結果があるということなんですね。

「こうあるべき」を捨てる

日野
日野

今回のテーマである「経営者の哲学」について、 柴田社長が大切にされている考えをお聞かせください。

柴田社長
柴田社長

「こうでなければならない」という考えを捨てた方がいいなとずっと思っています。人間ってなんにでも規則を作ったり、意味をつけたりしてコントロールしたがるんですけど、「こうあるべき」「こうすべき」といった考えで動き続けると、どこかに矛盾が生じてきて、 不均衡な状態になる気がするんです。それが世の中の色々なところに蔓延していると思っていて……。先日、木村石鹸さんの木村社長と対談した時に「ルールってない方がいいよね」って話になったんです。ルールを何のために作るかと言えば、はみ出るものを自分たちの枠に収めるために作るわけです。そうやって逐一ルールを作っていくと、 どんどん窮屈になっていくんですよね。そして結局「ルールのためのルール」となって形骸化していく。もちろん最低限のルールは必要だと思いますが、そんなに「こうあるべき」に固執しなくていいんじゃないかなと思っています。

日野
日野

確かにルールの少ない方が自由な印象がある一方で、例えば入社したての人の中には「何をしたらいいんだろう」と、どうしたらいいかわからない人もいるかと思います。そういう人たちにとっては、ある程度のルールは必要なのかなとも感じるのですが……。

柴田社長
柴田社長

会社の中での方針はあった方がいいと思うんですけど、別に規則として「これはやっちゃダメだよ」っていうのを作らなくても良い組織にしていきたい。その会社の想いに共感して 一緒に働きたいと思ってくれる人が入ってきてくれたら、会社が考えてる枠の中に自然と収まっていくはずなんですよね。もちろんこれまで会社はルールをどんどん作ってきたと思うんですけど、今は細かいルールを作って運用していくことに時間をかけられるほど労働時間も長くない。その中でみんなの幸せを考えた時に、「こうあるべき」とか「こうしなきゃダメ」をなるべく言いたくないなと。制約を作っていくということは、みんなの自由を奪うことになるので。

日野
日野

特に柴田社長がそういう想いを強めた具体的な経験はありますか?

柴田社長
柴田社長

会社を創ってから20年、これまでずっと仕組み化を考えてきました。うちの会社は拠点がたくさんあるんです。京都産業大学や京都華頂大学、大学コンソーシアム京都、八幡市、そして本社。各拠点で働き方が違うんです。大学などの拠点では拠点先の働き方に準じる必要があるけれど、本社は自由な働き方だったり。そのため社員が6段階から選べる働き方を導入しています。これは理にかなっていると思うし、今のうちの会社ではうまく機能していて、それ以外のイレギュラーやはみ出るものをなんとか制度の中で収めていこうとしてずっとやってきたんですけど、だんだんそれも難しくなってきました。

日野
日野

分けようと思ったら、もっと分けられますしね。

柴田社長
柴田社長

それを投げ出すつもりはないんですけど、コミュニケーションで超えていくしかないなって思ったんです。この間、京都移住計画の田村さんと企画でお話ししていた時に、働き方改革の話になったんです。給料とか休日といった待遇は改善されていくけど、1番フォーカスされる「働き方」の改善があまりない。例えばリモートワーク1つとっても人によってその価値が違うけど、働き方の話って定量化できないから社員と会社がどういう風にそこをすり合わせたらいいかって難しいんですよ。僕は定性的なところをどうやって定量化したらいいのかってずっと考えていましたが、「それはもう個別事情なんだからコミュニケーションで超えていくしかないよね」って気づいたんです。

日野
日野

自分自身で試行錯誤して気づかれたのですね。

柴田社長
柴田社長

まだ会社の規模が小さかった時には、コミュニケーションで超えてきたはずなんです。 でも規模が大きくなった時に、うまく自分の中で消化できなくなってきた。最近業務提携をしたマガザンさんという会社とお仕事をご一緒している時に、一つ一つコミュニケーションで超えていっている姿を見て、「そうや、こういうことをやりたくて会社創ったのに、なんでこんな仕組みとかばかり作ってるんやろ」って思ったんです。仕組みは必要だけど、制約をあまり持ち込みまずにコミュニケーションで超えていけるような組織が理想ですね。

日野
日野

「こうであるべき」を作らず、コミュニケーションで乗り越えていく……。

柴田社長
柴田社長

そうなった時に大切になるのが「自我」だと思います。これは対談の記事にも書いていますが、会社経営においては、自意識、つまり世の中からどう見られているかを意識しすぎると、ルールばかりできていって何も意味をなさない仕組みになっていくんですよね。だから、我がどうありたいかという自我を基準に決めていくことが大事です。求職者に対して「うちはこんないい働き方が揃ってますよ」みたいなプレゼンテーションはもう意味なくて、「うちは全員出社してもらわないと困ります」って言い切ってくれる方が求職者は選べると思うんですよ。結局、自意識的に揃えた働き方改革って、全て同じ方向に収斂していくので面白くないですよね。社員にもその人が本当に自我で思っていることを言ってほしいと思いますが、やっぱりどこまでが自我で、どこまでが自意識かってあまり意識できていないように思います。

日野
日野

SNSなんかでもリアクションが即座に出てくるから、常に周りを意識しすぎてしまう。社会的に自我をどう出していくかみたいなところが大事になってきているのですね。

柴田社長
柴田社長

だからと言って難しく考える必要はないです。社名の「おいかぜ」って言葉は「だれかのおいかぜになる」ということでもあるのですが、僕のように大義はないけど「だれかのおいかぜになる」を自我にしても良いわけですよ。世の中のために何かを成し遂げるみたいなことが自我だと思われているけど、別に自分の自我だから、人と比べる必要はありません。人の役に立ちたいというのが自我でも良いし、俺は目立ちたいんだ、みたいなことが自我でも別に良いんです。世の中にある理想的な姿を追い求めるとしんどいですよ。

自意識が強く働く時代で

日野
日野

自意識が強く働くこの時代で、これから自我を見つけていく20代の人たちに対して最後にメッセージをお願いできますか?

柴田社長
柴田社長

なんかすごく難しい時代じゃないですか。SNSがこれだけ普及して、どう生きてても自意識が強く働く時代だと思うので、自分の声を素直に聞く力は大事だなと思っています。「自分がどうありたいか」というのは、常に問い続けなきゃ道に迷うだろうなっていう気はするんですよね。僕も「社長らしくしなきゃ」とか、「会社経営とはこういうものだ」といったことに囚われていた時期もあったんですけど、結局「こうしなければならない」というものはなかったんですよね。だから、深く考えすぎずに素直に自分と対話してみてほしいです。

日野
日野

自分自身の素直な声を聞く……。

柴田社長
柴田社長

どっかにあると思うんですよね。僕は誰かの下支えをしてる時が楽しいし、それで誰かが結果を出してくれた時は、喜びになりますし。これまで自分が喜びを感じてきた瞬間を大切にしたらいいんじゃないかなと思います。

日野
日野

そうですね。柴田社長自身が素直な声に気づくために気をつけていることはありますか?

柴田社長
柴田社長

1人になる時間を作るようにしています。オフラインで1人になるっていうのは結構大事ですよね。どこまで行ってもスマホで仕事ができるから、ずっとスマホ見ちゃうじゃないですか。僕はスマホから少し離れて1人になる時間を意識的に作るようにしています。

日野
日野

そうですよね。オンラインで繋がっている状態だとどうしても見られている意識が出てきちゃいますね。

柴田社長
柴田社長

今は働く時間がどんどん細分化されてるので、ちょっとした休憩の5分でもメールの返信したりして、遊んでるのか仕事してるのかわからない状態になるから、本読むとかでもいいと思うんですけど、ちゃんと自分と対話できる時間を作ってみたらいいと思います。

試行錯誤の中で、仕組み化していくだけではなく、一つ一つをコミュニケーションで超えていくのが大事だという柴田社長の気づきが印象的でした。世間や環境の「こうすべき」にとらわれず、自分のやりたいことを追求していくことが大事だと改めて実感しました。

<取材・執筆=日野、写真=田部>

株式会社おいかぜ HP:https://www.oikaze.jp/

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