今西社長が代表を務める株式会社デイアライブは、観光業やふるさと納税、留学生誘致など、地域振興に関わる幅広い事業を展開している。前回の取材から4年が経過し、AIやDXといった新しい技術への注目が高まる中、今西社長は「手段に振り回されることが最近多い」と指摘する。
今西 建太(いまにし けんた)
株式会社デイアライブ 代表取締役CEO
前回の記事はこちら
手段に振り回されず、目的から考える
前回の取材から4年が経ち、デジタル技術の進化など、環境も大きく変化していますが、その中で今西社長が感じていることをお聞かせください。
私たちは地域の振興や課題解決においてWEBやITなどのデジタル技術の導入サポートを行っていますが、エンドユーザー側に立って考えてみた時に、「どの技術が使われているかってそこまで大事なのか?」と思うことが増えました。例えば、自分にとって一番必要な情報を出してくれたり、最適なルートを検索してくれたりするのであれば、目新しいAIより、昔ながらの技術を使った確実な方法の方が良いかもしれないですよね。別にAIを否定しているわけではなく、便利なツールがどんどん増えてきて良いこともたくさんあります。ただ、最近はツールが増えた分手段に振り回されることが多いと感じています。だから、例えば「AIを導入したい」という相談を受けた時に、「なぜAIなのか」と聞くと相手が答えを持っていないことが多い。
確かに新しい技術への注目は高まっていますが、「何を使うか」にフォーカスされがちです。
私たちが地域の課題と向き合う時は「まずその地域の魅力をちゃんと見つめ直すところから始めましょう」と話しています。単に「今インスタが流行っているからリールを活用しましょう」と言っても意味がない。大事なのはどのツールを使うかじゃなくて、どんな目的でどんな結果を出せるかです。課題に対するアプローチを検討して、最終的にインスタを活用するというアクションになるかもしれませんが、それは結果の話です。技術の話も同じです。「AIを使いたい」というのは、ユーザー目線とは言えないですよね。それが会社の広報になるなら別ですが、課題解決のために本当にAIが正しいのかを検討する必要がある。例えば何かを調べたいとき、わざわざユーザーに質問をテキストで入力させてAIで答えを出すよりも、最初から全パターンを表にしてサイトに掲載しておく方が便利なときもある。
手段に振り回されないで、目的のところに立ち戻って手段を選ぶのが理想ですね。
そうですね。DXについても同じですよね。DXは4年前くらいから出てきた言葉で、「ビッグデータやAI、IoTなどのデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革する」といった定義がされています。でも「変革」って具体的に何を指すのでしょう。この間、立教大学の社会人向け講座でもこの話をしたんですが、「変革」という言葉だけではその全体像が見えてきません。私の考えでは、経営上の成果を出すことこそが変革です。例えば、コストが大幅に下がるとか、売上が大きく上がるとか、経営上重要な数値に影響を与える具体的な成果があって初めて変革と言える。
分かりやすい例が東京ディズニーランドのアプリです。2018年以前は紙のファストパスを使っていました。今はアプリ化されていますが、単にアプリ化しただけなら、それはDXとは言えない。ディズニーランドのアプリが優れているのは、有料ファストパスの導入や、ECサイトの機能、レストラン予約など、様々な機能を通じて確実に顧客単価を上げているところです。1人2000円の有料ファストパス、その場で購入できるお土産の配送サービス、事前予約できるレストラン。これらすべてが顧客単価の向上に貢献しているという意味でこれは変革と言えると思います。
さっきのお話と繋がってきますね。手段に振り回されるんじゃなくて、結果が出るかどうかにこだわることが大切だと。
そうです。ChatGPTやその他のAIツールを試しに使ってみるというのは全然構いません。でも、ビジネスとして何かをやろうとする時は、「AIだから」という理由では足りない。実際、多くの自治体で観光パンフレットをアプリ化する例がありますが、それだけでは何のDXでもない。どうやって観光地の経営上重要な数値にインパクトを与えるのか、その仕掛けがアプリに組み込まれているのか。そこまで考えないと、ただアプリを作っただけでは意味がない。
関わり方の選択肢を増やし続ける
次に、経営者として大切にされている考えや最近の気づきについてお聞かせください。
コロナは本当に大きな出来事でしたね。コロナを通じて働き方について考える機会ができました。それまでも働き方はある程度柔軟だったと思いますが、うちの会社に関わりたいと思ってくれる人たちがいるならば、できるだけ多様な関わり方を用意しておきたいと思うようになりました。人生には、親の病気や子どもの誕生など、様々な節目があります。そんな中で、フルタイムの正社員しか認めませんというのは、もう無理だろうと思うようになって……。昔の会社なら、会社が人を選べる立場だったから、フルタイムの正社員とそれ以外をはっきり分けることができました。でも今は違う。
具体的にはどのような働き方の選択肢があるのでしょうか。
元々フルタイム正社員は最初からフレックス制を導入していて、1ヶ月の所定労働時間を満たせば良いという仕組みがありました。それに加えて、アルバイトのような働き方も用意しました。日によって働く時間は違うし、働かない日もあるかもしれない。でも、決してアシスタント的な仕事だけではなく、重要な仕事も任せる。時給は、フルタイムで働いた場合の給与を基準に換算しています。また、例えば4歳のお子さんがいて保育園の時間の関係で1日6時間程度しか働けないという方には、時短フレックス制度を新設しました。さらに、業務委託契約で働く選択肢も用意して、例えば徳島県在住のエンジニアや、アメリカに帰国した元社員にも継続して業務に関わってもらっています。
そのような柔軟な働き方の仕組みを作って、良かった点や課題点はありますか。
良かった点は、人が辞めなくなったことですね。フルタイムしか選択肢がなければ、自分のやりたいことか仕事かの二者択一を迫られてしまう。でも、3ヶ月に1回の面談で「こんな働き方を考えているんです」と相談できる環境があることで、継続して関わってもらえています。課題としては、労務業務が増えること。給与計算のパターンが多様化して手間は増えますが、それも含めて誰かに任せられる仕組みを作っていければと思っています。今年は4人の社員に子どもが生まれました。特に女性社員は産休から復帰する際、フルタイム正社員しかないと仕事を続けるのが厳しい。でも、時短フレックスやシフト制を用意していることで、段階的に働き方を変えていける。そういう安心感を持ってもらえるのは大きいですね。
働き方の多様化が進む中で、今後はどのような変化が起きると思われますか。
35歳くらいまで、仕事のできる人は全員フリーランスになれば良いと思っていました。でも今は考えが変わってきて、働き方は多様であるべきだと思うようになりました。人によって人生の優先順位は違うし、同じ人でもライフステージによって変わる。フリーランスという選択肢が増えたのは良いことですが、だからといって正社員が悪いわけではない。結局のところ、雇用形態で人を分けるのではなく、それぞれの働き方を認めながら、うまくチームを作っていく。それが会社として必要なことだと考えています。正直、小さな会社が人材を確保するためには、もうこの道しかないとも思っています。
人生の優先順位を決める
最後に、就職活動中の学生や若手社会人へのメッセージをお願いできますか。
実はこの前、キャリアデザインについて同志社女子大学で講義をする機会がありました。そこで話したことが、キャリアデザインにそこまでこだわる必要があるか、ということでした。一般的なキャリアデザインでは、まずビジョンを決めて、そこからバックキャストしてキャリアプランを作り、1年後、3年後、5年後、10年後の目標を設定し、最後にアクションプランを作りますよね。でも、大学生1万人いたとして、学生の時代からそんなはっきりしたビジョンがあって、やるべきことを洗い出して、1個1個実行できる人って、実際どのくらいいるんでしょうか。「それができないとダメ」と言われたら、ものすごくしんどいと思うんです。もちろん、将来について考えてみること自体は良いことです。でも、それが絶対的な正解だと思い込む必要はない。
そうすると、どんな考え方で就職活動や仕事に向き合えばいいのでしょうか。
大学のキャリアセンターに行けば、一般的なキャリアデザインの方法を教えてもらえます。それを参考に形だけ整えてみることはできるでしょう。でも、そもそも社会がものすごく急速に変わっていっている中で、将来を完璧に設計することなんて、本当に可能なんでしょうか。だからこそ、その時々で自分が本当に大切にしたいことは何か、優先順位の高いことは何かを考えることが大切だと思います。「今、自分は何を大切にしたいのか」と都度考えていけば良いのです。
確かに働き方の選択肢が以前より増えていて、この先はどうなるかわかりませんね。
私の親の世代は、転職するだけでバツがつくような時代でした。それが今では転職は当たり前になり、フリーランスという選択肢も増えた。ただし、フリーランスが誰にでも合っているわけではありません。正社員として一つの会社でじっくり成長していきたい人もいれば、複数の仕事を掛け持ちしたい人もいる。人によって人生の優先順位は違うし、同じ人でもライフステージによって変わる。自分にとってどんな働き方が合っているのかを、価値観をアップデートしていきながら焦らずに見つけていったら良いと思います。
<取材・執筆=日野、写真=田部>
株式会社デイアライブHP:https://dayalive.jp/