背伸びせず、地道が一番。

インタビュー取材

前回の取材から4年。創業130年を迎える亀田利三郎薬舗の亀田利一社長に再びお話を伺いました。老舗の漢方薬メーカーとして、原料へのこだわりを守り続ける一方で、時代の変化に合わせてお茶や化粧品など新たな展開も模索する同社。そんな伝統と革新の狭間で、亀田社長が大切にしているのは「地道にコツコツと」という哲学でした。

亀田 利一(かめだ りいち)
株式会社亀田利三郎薬舗 代表取締役社長
前回の記事はこちら

中身で勝負”の130年 ―呉服屋から始まった漢方薬の物語―

日野
日野

亀田利三郎薬舗さんは創業130年とのことですが、今回は改めて、その歴史や工夫されていることをお聞きできたらと思います。

亀田社長
亀田社長

うちの歴代を遡ると、初代は亀田利平で、最初は紅屋から始まりました。その後呉服屋に方針転換した後、漢方薬に転向して現在私で8代目になります。会社名の「利三郎」は、曽祖父の名前なんです。その利三郎の父親が、呉服の将来性に限界を感じて、息子を中国に行かせました。当時の中国は漢方薬の最先端で、その時に利三郎が上海で病気になった際、六神丸が効いたことがきっかけで薬業を始めることになったんです。

日野
日野

130年も続いている理由は何だとお考えですか?

亀田社長
亀田社長

やはり日本人の体に合った薬だったからだと思います。明治・大正時代は、近所にお医者さんもない時代。子供が具合悪くなってもすぐ病院には行けない。そういう時代に、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に住む大家族の中で、「これを飲んでおきなさい」と使われ始めたんでしょう。最近でも、もう危ないと言われていた93歳のお年寄りが、六神丸を飲んでから驚くほど元気になったという話もあります。

日野
日野

一方で、漢方薬を取り巻く環境は厳しくなっているとお聞きしました。

亀田社長
亀田社長

そうですね。原料の調達が非常に厳しくなっています。例えば、牛の胆石は1000頭に1頭、あるいは1万頭に2頭しか取れない貴重なもので、今では1グラム1万円以上します。10年前は3000円から4000円だったものがどんどん高くなっています。投機目的で買われることもあって、今もどんどん値上がりしている状況です。

日野
日野

そうした中で、伝統を守りながらも新しい取り組みをされているそうですね。

亀田社長
亀田社長

はい。六神丸の売り上げが厳しくなってきている中で、お茶や入浴剤、化粧品などに力を入れています。特にお茶は、漢方の知識を活かしてブレンドしたもので、今ではホテルのアフタヌーンティーでも使っていただいています。若い方でお酒を飲まない方も増えていますし、ノンアルコール需要も考えながら展開しています。

日野
日野

伝統を守る上で、特に大切にされてきたことは何でしょうか。

亀田社長
亀田社長

原料へのこだわりですね。ピンからキリまである中で、うちは一番良いものを使うというのが、変えないところです。良いものを使えばよく効く。広告もせず、桐箱のような装飾的なものも作らず、中身で勝負するというのがうちのモットーなんです。

“素直”という強さ ―上を見ず、自分の道を行く―

日野
日野

経営者としての哲学について、亀田社長が大切にされていることをお聞かせください。

亀田社長
亀田社長

地道にコツコツと、というのが私の考え方です。必要なステップを飛ばしてはダメだと思っています。例えば六神丸が何かのきっかけで急に売り上げを伸ばすようなことを期待するのではなく、今自分の目の前にあることをやる。売れたら売れたでいいんですけど、そんなに期待せずに、自分のやれることをちゃんとしていこうと考えています

日野
日野

その考え方は、いつ頃から持つようになられたのでしょうか?

亀田社長
亀田社長

特に決定的なきっかけはないんですけど、宝くじで1発当てようというよりは、やっぱりコツコツせんとあかんなと、何年か前から思うようになりました。

日野
日野

今の時代、SNSなどで様々な情報が飛び交い、若い人はあっちこっち惑わされがちだと思うのですが、その中で「地道に」という考え方をどう捉えればよいでしょうか。

亀田社長
亀田社長

どれを信じるかじゃないでしょうか。どれだけ1本筋が通っているか。私なんかでも、言われたことに振り回されてふらふらすることはありますが、それでも地道にやっていくしかないと思っています。

日野
日野

亀田社長の「筋」とは何でしょうか?

亀田社長
亀田社長

それは原料にこだわって、良いものを使うこと。お茶でも入浴剤でも化粧品でも、私たちが作るものには良いものしか使わない。お客様に満足してもらえたら、それで私たちも満足なんです。

日野
日野

周りと比べて、もっと成長したいという気持ちは持たれないのですか?

亀田社長
亀田社長

周りを見ていると、憧れることはありますよ。いい車に乗って、高級なものを食べてワインを飲んで、という生活。昨日もそんな話を他の経営者としていました。あの人に憧れて、「ああなりたい」と思っても仕方がない。自分と対峙してできることに誠意を尽くすことで成長できると思います。

日野
日野

自分のできることを見つけていく過程は、どのようなものだったのでしょうか?

亀田社長
亀田社長

自分のできることはまだ完全には分かっていないかもしれませんね。ただ、自分の気持ちややりたいことに素直であるというのは、これまでもこれからも大切にしている価値観です。

日野
日野

その「素直」というのは、身体が求めているものに従うという意味でしょうか?

亀田社長
亀田社長

そうですね。例えば、胸やけしている時に、焼き肉を食べに行かないでしょう。自然とお粥を食べたくなる。そういう風に、自分の身体が求めているものに素直に従う。それと同じように、ビジネスでも自然に素直に、というところを大切にしています。

背伸びよりも、素直に ―130年企業の社長が語る人生の歩み方―

日野
日野

最後に、就職活動中の学生や京都での活躍を目指す若い世代に向けて、メッセージをお願いできますか?

亀田社長
亀田社長

前回の取材の時は、「悔いが残らないように」と言っていたんですが、今は地道に、そんなに背伸びせずに、自分らしく生きてほしいですね。お酒を飲まなくても、車を持たなくても、そんなの全然関係ないんです。でも、お酒を飲みたくなる、車を持ちたくなる、そんな時期がくるかもしれません。

日野
日野

その、車が欲しいというのも、本当に自分が欲しいのか、見栄のために欲しいのかをちゃんと見極める必要がありますよね。

亀田社長
亀田社長

そうです。あいつがあれに乗ってるから欲しいなというのではなくて、自分が本当に欲しいものにお金を使ったらいいと思います。自分がやりたいことというのは、身体が求めているということですから。素直に従っていったら良いんじゃないかと思いますね。

「素直に生きる」この哲学をめぐってたくさんのお話を伺うことができました。特に、食べたいものが体の求めているものだ、というお話は、亀田社長の生き方に通ずるものを感じ、感動しました。

<取材・執筆=日野、写真=田部>

株式会社亀田利三郎薬舗HP:https://www.kameroku.co.jp/

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